道標は繰り返されてきた過去からの記憶
大きな浅葱(あさぎ)色の斑点のある羽をゆっくり動かし、ふわふわと浮くように飛ぶアサギマダラ。とても優雅な立ち振る舞いですが、なんとこの優雅な体で2,000kmを超える長距離移動をすることでも知られています。
冬の間は暖かい南西諸島や台湾などで過ごし、夏になると北上し本州の森林地帯の涼しい地域で過ごします。そして秋になるとまた暖かい南の方へ戻っていくという日本では珍しい「渡り」をする蝶です。渡りの間に世代交代を行うため同じ個体が行って帰ってくるわけではありませんので、お父さん、お母さんの生まれ故郷へ戻っていく感じでしょうか。場合によってはおじいちゃん、おばあちゃんかもしれません。
同じようにウスバキトンボも長距離移動をすることで知られていますが、いかにも飛ぶのが得意そうな体つきのトンボと比べるとか弱く見えるアサギマダラは大きな羽と軽い体をうまく使い、上昇気流や風の力を借りながら目的地までの長い道のりを旅します。
夏のうだるような暑さや冬の身を刺すような寒さを避け、常に適温を求めて移動を続ける生活はなんともうらやましい限りですが、その分移動にエネルギーを費やすので、日本に渡りをする蝶がほとんどいないことからも分かるようにその旅路は私たちが想像するよりも遥かに過酷なものであることは間違いありません。しかし、どんなに困難な移動であっても、道に迷わずに世代を超えて「渡り」を繰り返すアサギマダラの力強さと生き物に備わった本能は驚くべきものです。
ちなみに幼虫はキジョランなどの毒性の植物を食べて育つので、アサギマダラの体には毒があります。